【第8回】~10.22~



ごきげんよう。第0回も含めると3回目の登場となる冴木麗だ。やはり僕ほどの人気者となると、出演の要望が多くなるようだね!

…………。

…………。

……なぁ。誰か、何とかコメントしてやれよ?

…………。

……特にない。

おいおい君たち、せっかくこうして人前に出るチャンスをもらったんだろう? 僕とは違って普段アピールの場も少ないんだから、喋らないともったいないんじゃないかな?

何がもったいないんだよ。僕は別に、ニンゲンどもにどう思われたって興味ないしな。

……俺も、無理してまで好かれたくない。

そんなことを言っているからダメなんだよ! シスカちゃん、君は何かあるだろう? せめて君だけでも、何か喋ってくれないか?

うう……怖い人ばっかりじゃ。もうイヤじゃ……帰りたい。

なっ……失敬だね。僕のどこが怖いというんだい? これほどに知的で物腰の柔らかい僕に対して、どうすればそのような印象が生まれるのか甚だ疑問だね。誰もが納得のいく説明をしてもらえないかな? ……ねぇ? 自分の発言には責任を持つべきだよ? 違うかい?

こ、怖い……。蝴蝶、助けて……。

あ、泣かした。

……冴木が泣かした。

ちょっ……まっ、待ちたまえ。僕が泣かした? 違うだろう? 彼女は、勝手に泣き出したんじゃないか。思うに、僕とは違って容貌の恐ろしい二人によって、はじめから彼女の精神は限界を迎えていたんだ。僕は、あくまで最後の一押しをしてしまっただけであって――

冴木が、泣かした。

最後の一押しは認めてるんだろ。謝れ。

うう、ううう……。

な……何だというんだ。まだ、全然まともに会話もしてないというのに……なのに、この空気は……何だ!?

どんな空気を期待してるんだよ? 僕は最初から、ニンゲンなんかと馴れ合いたくないんでね。

冴木が泣かした。

うう……うっ、ぐっ……。

これは……明らかな人選ミスだろう。僕に、どうしろというんだ? 僕の人気を下げるための陰謀なのか……?

誰がそんな下らない陰謀立てるんだよ。とりあえずその子を泣き止ませろ。普段から偉そうに『僕にできないことはない』とかほざいてるだろ?

怖い……怖い……。

……一見完璧に見える僕にとっても、苦手なことはあってね。泣いている人を慰めるのは、あまり得意ではないんだよ。特に、子どもの世話はあまり……その、何というか……。

……仕方ない。俺がやろう。

ムネタカ君が!?

おい。キャンディだ。……やる。

しっ……知らない人に物をもらうのはダメなのじゃ!

……そうか。

あっさり引き下がった……!?

……ハッ。見事に玉砕だな。

すまん。

こうなったらしょうがないなぁ。僕が手本を見せてやるよ。ニンゲンの心を弄ぶのは、僕たち悪魔の独壇場だろ。バカな小娘一人手懐けるなんて、わけないね。

……見るからにバカみたいな奴にバカとか言われた……。

何だと!?

ううっ……怖いっ!!

おい、お前。これやる。キャンディーだよ。だからさっさと泣き止め。

うう、う、ううぅ……。

……おやおや。ニンゲンの扱いに慣れてるはずの悪魔様、どうしたんだい? 余計泣かせてしまったようじゃないか?

やってることは俺と同レベルだ。

うるさい!! これは……誰にも無理だろ。諦めろ。その方が早い。

ハハ……これで僕が無能ではないという証明はできたね。一安心だよ。

何が安心なんだよ。泣いてる女の子を目の前にして、安心とか言うなよ。……最低のクズだな。心も身体も小さいクズだ。

なっっ……身体は小さくない!! そこにいるシスカちゃんの方が、もっと小さいじゃないか!!

あ、それだよ。すぐに他人を貶める奴。そういう奴って、ほんとどうしようもないなって僕は思うんだけど?

ぐっ……。とにかく僕は、小さくない! 身長は……170cmはあるんだからね!!

ちなみに、俺が170cmぐらいなんだが……。

明らかに冴木のが小さいな。

ムネタカ君は黙っていろ!! これは……遠近法だ!! 目の錯覚にすぎないから、気にするほどのことじゃないっ!!

…………うん。

じゃあ、そういうことにしといてやるから……そろそろ撮影しとくかい? 僕と並んだら、お前の貧相さが際立ちそうだけどね。

……君の、バカオーラが引き立つんだろう? 可哀想だけど、企画だからね。隣に並んであげるよ。本当は近寄りたくもないけどね。

……よし。撮るぞ。


……すこし膝を曲げすぎたかな。僕の身長が、実際より低く見えるね。

はいはい、よかったな。ずっと一人で言い訳してろ。

……もう、相手にするのも疲れてきたよ。

……見事にニンゲンを手玉に取っているな。さすが悪魔だ。

ま、大したことないさ。……で、あのチビガキはどこ行ったんだよ。さっさと撮影終わらせて解散しようぜ?

さっきから、あそこで震えているぞ。

……ああ。あんな隅っこに。

イヤじゃ……もう、無理じゃ……。

おい、写真だ。早く来い。

…………。

終わったら帰してやる。怖がらなくていいから、来い。

う……うむ…………。

お、出てきたね。じゃあ、僕が撮ってやるよ。不器用には写真なんか撮れなさそうだしね。

不器用……? それは、もしかして僕のことを――


ん、撮れたな。企画終了だ。

よかったな。もう帰って大丈夫だぞ。

もう……よいのか?

……ん。何も怖がることなどなかっただろう?

そう……かも、しれぬな……。

次があるかどうか知らんが、次は怖がらなくていい。先に帰っていいぞ。

……うむ。では、お疲れ様じゃ……。

……ふぅ。それにしても……今回の企画は散々だったね。次回とその次で終了してしまうというのに、もったいないと言うほかない。こんな盛り上がりに欠ける会話、誰も楽しめないんじゃないかな?

お前じゃなくて、もっと気の利く奴が来てればよかったよな。藍川拓都や藤崎夏梨なら、僕も読者ももっと楽しめただろうよ。

ぼ……僕のせいだというのか!? 僕は、対談が明るい雰囲気になるよう、精一杯努力して――

どうでもいいけど、お前の妹、一週間前から無人島に閉じ込められてるぞ。

…………何?

嘘じゃないから早く行ってやれよ。食糧も水もとりあえずあるから、まだ死んではいないけど。

な……何を、いきなり言い出すかと思えば……。

……先週から、ずっといたのか。冴木、嘘じゃない。さっさと助けに行け。

先週の企画……見飛ばしていたよ。それはまずい。すぐに確認しなければ……!!

……行ったな。

よし。うるさい奴がいなくなった。

それにしても……あのカルミアという悪魔は、本当に悪魔のような奴なんだな。

はぁ? 『悪魔のような』じゃなくて、悪魔なんだよ。僕よりだーいぶ劣るけど、それでも一応、本物の悪魔さ。

お前は……良い奴そうだからな。

……はぁ!? いや、僕は悪魔だ!! 悪そのものだよ!! バカにするな!!

……うん。すまん。


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