ごきげんよう。第0回も含めると3回目の登場となる冴木麗だ。やはり僕ほどの人気者となると、出演の要望が多くなるようだね! |
…………。 |
…………。 |
……なぁ。誰か、何とかコメントしてやれよ? |
…………。 |
……特にない。 |
おいおい君たち、せっかくこうして人前に出るチャンスをもらったんだろう? 僕とは違って普段アピールの場も少ないんだから、喋らないともったいないんじゃないかな? |
何がもったいないんだよ。僕は別に、ニンゲンどもにどう思われたって興味ないしな。 |
……俺も、無理してまで好かれたくない。 |
そんなことを言っているからダメなんだよ! シスカちゃん、君は何かあるだろう? せめて君だけでも、何か喋ってくれないか? |
うう……怖い人ばっかりじゃ。もうイヤじゃ……帰りたい。 |
なっ……失敬だね。僕のどこが怖いというんだい? これほどに知的で物腰の柔らかい僕に対して、どうすればそのような印象が生まれるのか甚だ疑問だね。誰もが納得のいく説明をしてもらえないかな? ……ねぇ? 自分の発言には責任を持つべきだよ? 違うかい? |
こ、怖い……。蝴蝶、助けて……。 |
あ、泣かした。 |
……冴木が泣かした。 |
ちょっ……まっ、待ちたまえ。僕が泣かした? 違うだろう? 彼女は、勝手に泣き出したんじゃないか。思うに、僕とは違って容貌の恐ろしい二人によって、はじめから彼女の精神は限界を迎えていたんだ。僕は、あくまで最後の一押しをしてしまっただけであって―― |
冴木が、泣かした。 |
最後の一押しは認めてるんだろ。謝れ。 |
うう、ううう……。 |
な……何だというんだ。まだ、全然まともに会話もしてないというのに……なのに、この空気は……何だ!? |
どんな空気を期待してるんだよ? 僕は最初から、ニンゲンなんかと馴れ合いたくないんでね。 |
冴木が泣かした。 |
うう……うっ、ぐっ……。 |
これは……明らかな人選ミスだろう。僕に、どうしろというんだ? 僕の人気を下げるための陰謀なのか……? |
誰がそんな下らない陰謀立てるんだよ。とりあえずその子を泣き止ませろ。普段から偉そうに『僕にできないことはない』とかほざいてるだろ? |
怖い……怖い……。 |
……一見完璧に見える僕にとっても、苦手なことはあってね。泣いている人を慰めるのは、あまり得意ではないんだよ。特に、子どもの世話はあまり……その、何というか……。 |
……仕方ない。俺がやろう。 |
ムネタカ君が!? |
おい。キャンディだ。……やる。 |
しっ……知らない人に物をもらうのはダメなのじゃ! |
……そうか。 |
あっさり引き下がった……!? |
……ハッ。見事に玉砕だな。 |
すまん。 |
こうなったらしょうがないなぁ。僕が手本を見せてやるよ。ニンゲンの心を弄ぶのは、僕たち悪魔の独壇場だろ。バカな小娘一人手懐けるなんて、わけないね。 |
……見るからにバカみたいな奴にバカとか言われた……。 |
何だと!? |
ううっ……怖いっ!! |
おい、お前。これやる。キャンディーだよ。だからさっさと泣き止め。 |
うう、う、ううぅ……。 |
……おやおや。ニンゲンの扱いに慣れてるはずの悪魔様、どうしたんだい? 余計泣かせてしまったようじゃないか? |
やってることは俺と同レベルだ。 |
うるさい!! これは……誰にも無理だろ。諦めろ。その方が早い。 |
ハハ……これで僕が無能ではないという証明はできたね。一安心だよ。 |
何が安心なんだよ。泣いてる女の子を目の前にして、安心とか言うなよ。……最低のクズだな。心も身体も小さいクズだ。 |
なっっ……身体は小さくない!! そこにいるシスカちゃんの方が、もっと小さいじゃないか!! |
あ、それだよ。すぐに他人を貶める奴。そういう奴って、ほんとどうしようもないなって僕は思うんだけど? |
ぐっ……。とにかく僕は、小さくない! 身長は……170cmはあるんだからね!! |
ちなみに、俺が170cmぐらいなんだが……。 |
明らかに冴木のが小さいな。 |
ムネタカ君は黙っていろ!! これは……遠近法だ!! 目の錯覚にすぎないから、気にするほどのことじゃないっ!! |
…………うん。 |
じゃあ、そういうことにしといてやるから……そろそろ撮影しとくかい? 僕と並んだら、お前の貧相さが際立ちそうだけどね。 |
……君の、バカオーラが引き立つんだろう? 可哀想だけど、企画だからね。隣に並んであげるよ。本当は近寄りたくもないけどね。 |
……よし。撮るぞ。 |
……すこし膝を曲げすぎたかな。僕の身長が、実際より低く見えるね。 |
はいはい、よかったな。ずっと一人で言い訳してろ。 |
……もう、相手にするのも疲れてきたよ。 |
……見事にニンゲンを手玉に取っているな。さすが悪魔だ。 |
ま、大したことないさ。……で、あのチビガキはどこ行ったんだよ。さっさと撮影終わらせて解散しようぜ? |
さっきから、あそこで震えているぞ。 |
……ああ。あんな隅っこに。 |
イヤじゃ……もう、無理じゃ……。 |
おい、写真だ。早く来い。 |
…………。 |
終わったら帰してやる。怖がらなくていいから、来い。 |
う……うむ…………。 |
お、出てきたね。じゃあ、僕が撮ってやるよ。不器用には写真なんか撮れなさそうだしね。 |
不器用……? それは、もしかして僕のことを―― |
ん、撮れたな。企画終了だ。 |
よかったな。もう帰って大丈夫だぞ。 |
もう……よいのか? |
……ん。何も怖がることなどなかっただろう? |
そう……かも、しれぬな……。 |
次があるかどうか知らんが、次は怖がらなくていい。先に帰っていいぞ。 |
……うむ。では、お疲れ様じゃ……。 |
……ふぅ。それにしても……今回の企画は散々だったね。次回とその次で終了してしまうというのに、もったいないと言うほかない。こんな盛り上がりに欠ける会話、誰も楽しめないんじゃないかな? |
お前じゃなくて、もっと気の利く奴が来てればよかったよな。藍川拓都や藤崎夏梨なら、僕も読者ももっと楽しめただろうよ。 |
ぼ……僕のせいだというのか!? 僕は、対談が明るい雰囲気になるよう、精一杯努力して―― |
どうでもいいけど、お前の妹、一週間前から無人島に閉じ込められてるぞ。 |
…………何? |
嘘じゃないから早く行ってやれよ。食糧も水もとりあえずあるから、まだ死んではいないけど。 |
な……何を、いきなり言い出すかと思えば……。 |
……先週から、ずっといたのか。冴木、嘘じゃない。さっさと助けに行け。 |
先週の企画……見飛ばしていたよ。それはまずい。すぐに確認しなければ……!! |
……行ったな。 |
よし。うるさい奴がいなくなった。 |
それにしても……あのカルミアという悪魔は、本当に悪魔のような奴なんだな。 |
はぁ? 『悪魔のような』じゃなくて、悪魔なんだよ。僕よりだーいぶ劣るけど、それでも一応、本物の悪魔さ。 |
お前は……良い奴そうだからな。 |
……はぁ!? いや、僕は悪魔だ!! 悪そのものだよ!! バカにするな!! |
……うん。すまん。 |